摂食・嚥下障害とはこんな病気
嚥下障害とは口の中の飲食物をうまく飲み込みにくくなる状態のことを指します。
口に入れた飲食物が胃に運ばれる(嚥下)までに、下記のようなさまざまな器官の機能を使います。
- 口から喉へ飲食物を運ぶ
- 口から入れた飲食物が鼻に逆流しないようにする
- 喉から食道へ飲食物を運ぶ
- 食道に運ばれた飲食物が肺に入らないようする
- 食道から胃へ飲食物を運ぶ
- 胃に運ばれた飲食物の逆流を防ぐ
上記に挙げた働きにより、飲食物が胃へ移動して消化されます。
嚥下障害が原因で食事量が減ってしまうと、栄養失調や脱水症状になることがあります。さらに、食事をしても飲食物が喉に詰まって窒息したり誤嚥性肺炎になったりする可能性があるので注意が必要です。
嚥下障害の症状とは
嚥下障害は舌や喉、食道などさまざまな器官が関わってくるので、症状が多岐に渡ります。
下記では「食事中・食後・その他」に分けて症状をご紹介します。
食事中の症状
- 飲食物が口から出やすくなる
- よだれが出やすくなる
- 鼻水が出やすくなる
- むせやすくなる
口を閉じるため、鼻の奥(軟口蓋)・気道(声門)を塞ぐための力が必要になる(圧が上がるため)ので、上記で記載した症状が出やすくなります。
食後の症状
- 胃から飲食物が逆流して胸やけしやすい
- 喉に飲食物が残ってかすれ声やしゃがれ声になりやすい
加齢などで胃と食道の間にある筋肉の機能低下により胸やけをしやすくなったり、喉に痰が絡みやすくなったりします。
その他の症状
- 食事が面倒くさくなり「体重減少、栄養不足、脱水症状」
- 飲食物が詰まったり変な所に入って「窒息、嚥下性肺炎」
嚥下障害を発症すると、食事が億劫になって食事が嫌になる可能性があります。食事が嫌になると、体重が少しずつ減って栄養・水分が不足して命に関わる事態になりかねません。
摂食嚥下の5期ごとにみる嚥下障害の原因
摂食嚥下は、食べ物を認知してから口から胃へ食べ物を送り込む一連の動作を言います。摂食嚥下の一連の動作は5段階に分けられます。
- 先行期:食べ物を認知する
- 準備期:咀嚼して食べ物を飲み込みやすくする
- 口腔期:飲み込む前に舌で食べ物をまとめて咽頭に送る
- 咽頭期:食べ物を咽頭から食道へ送る
- 食道期:食べ物を食道から胃へ送る
各期(段階)ごとに嚥下障害が起きる原因が変わってきます。下記では、5期それぞれの簡単な説明と各期の嚥下障害の原因を解説しています。
1. 先行期:食べ物を認知する
嚥下障害の先行期は、においや温度、硬さ、味などの視覚・嗅覚・触覚などから食べ物を正確に認識する時期です。先行期で問題が生じる方は主に下記のような原因が考えられます。
- 認知症
- 脳機能障害
- 意識障害
- 食欲不振
先行期の方の特徴は、認知症や意識障害などの脳に問題が発生してそもそも食べ物として認識できない方や、食欲不振で食べ物をみても「おいしそう」と感じず、口に運べない・運ばない方が該当します。
2. 準備期:咀嚼して食べ物を飲み込みやすくする
嚥下障害の準備期は、食べ物を口に運び咀嚼して食べ物を飲み込みやすくする時期です。準備期で問題が生じる方は主に下記のような原因が考えられます。
- 歯がない
- 筋力が低下している
- 咀嚼のやり方がわからない
加齢や老化で口周りの筋力が低下することで、食べ物を咀嚼しにくくなったり認知症になると「噛む」という行為がわからなくなったりもします。
3. 口腔期:飲み込む前に舌で食べ物をまとめて咽頭に送り込む
嚥下障害の口腔期は、柔らかく喉を通りやすくした食べ物を舌を使って咽頭に送り込む時期です。口腔期に問題が生じる方は主に下記のような原因が考えられます。
- 口腔内の筋力低下
- 舌の運動障害
口腔期は食べ物を飲み込むことが難しくなります。代表的なのは、飲み込んだ食べ物が誤って気道に入る「誤嚥」です。
誤嚥は、老化などで筋力が低下し舌の運動に障害が起きて食べ物を喉に正確に送ることが難しくなることが原因で起こったりします。
4. 咽頭期:ものを飲み込む
嚥下障害の咽頭期は、まとまりのある食べ物を咽頭から食道入口へ嚥下反射によって送り込む時期です。咽頭期に問題が生じる方は主に下記のような原因が考えられます。
- 咽頭の収縮力が弱い
- 食道入口が開きづらい
咽頭期は「ごっくん」と食べ物を飲み込むことが難しくなります。咽頭の収縮力が弱く食道入口が開きづらいため、まっすぐ落ちずに気管に入り込みやすく誤嚥に繋がります。
5. 食道期:食物を食道から胃へ送る
嚥下障害の食道期は、筋肉の収縮(蠕動運動)と重力によって食べ物を食道から胃へと送る時期です。食道期に問題が生じる方は主に下記のような原因が考えられます。
- 食道の筋力低下
- 食後の姿勢が適切でない
食道期に生じる問題は、食べ物の逆流です。食道の筋力が低下することで、食後に食べたものがせりあがってきます。胃酸も一緒に上がってくると、逆流性食道炎になる可能性があるので注意が必要です。
高齢者だけでなく子どもや若い層でも嚥下障害になることも
嚥下障害は高齢者だけではなく、子どもや成人など若年層でも起こりえます。下記では、子どもと成人の嚥下障害が起こる原因などをそれぞれ解説しています。
子どもの嚥下障害
高齢者に多い嚥下障害ですが、小さい子どもでも発症する可能性があります。生まれつき脳や口、喉などに異常がみられる方や事故による後遺症で発症することがあるからです。
食べ物を食べる行為は生まれてすぐにできることではなく、母乳や哺乳瓶からのミルクの摂取から始まって離乳食に移行し、歯が生えてくると咀嚼と徐々に食べ方を覚えていきます。
そのため生まれつきの病気だけではなく、食べ方を身に付けていく過程や環境が良くないと身につかず嚥下障害になりかねません。
成人の嚥下障害
子どもの時に食べ方を会得しても、20歳を超えた成人が嚥下障害になることもあります。近年のスマホやパソコンが急速に普及したことで、姿勢が悪くなっていることが原因です。
姿勢が悪くなることでストレートネックになり、摂食嚥下に大切な舌骨周辺の筋肉の動きに制限をかけられます。通常の首はS字に湾曲していますが、ストレートネックによって肩が前に丸くなり首が前に突き出し真っ直ぐになります。
首が真っ直ぐになることで気管も真っ直ぐになり、本来喉の奥にある食道につながる入り口が狭くなり、結果飲み込みにくくなるのです。
嚥下障害が原因で発症する可能性がある誤嚥性肺炎
嚥下障害が原因で唾液や食べ物の細菌が気管に入って肺の中で炎症が起こることを「誤嚥性肺炎」と言います。誤嚥性肺炎の起こる原因は下記のようなものが考えられます。
- 嚥下障害
- せき反射の働きの低下
- 口の中が清潔に保たれていない
- 体力や抵抗力の低下
誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者が多いですが、通常の肺炎との違いが分かりづらいため気づかずに過ごす方が多いです。「食後に疲れやすい」「食べ物をなかなか飲み込めない」などが続く場合は早めに相談しましょう。
誤嚥性肺炎については下記の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
>>【高齢者は要注意】誤嚥性肺炎とは?原因や治療法・予防法も紹介!
嚥下障害の治療方法
嚥下障害の治療法には「手術」「リハビリ」の2種類の方法があります。手術の方法も2種類あり、患者の症状や状態によって変化します。下記では2種類の手術方法とリハビリについて解説します。
手術
嚥下障害の手術には「嚥下機能改善手術」「嚥下防止術」の2種類があります。下記ではそれぞれの手術と手術を行うべき人の特徴を解説しています。
嚥下機能改善手術
嚥下機能改善手術は、喉を温存して飲み込む力を改善し、口から安心・安全に食事ができるようにする手術です。嚥下機能改善手術を行うべき人は以下の通りです。
- 咽頭期に問題がある人
- 食べ物を飲み込みづらい人
- 機能を少し改善すれば食べられるようになる人
嚥下機能改善手術は、喉の骨周辺を持ち上げることで嚥下機能を改善するものと、食道の入り口を広げることで食べ物の通り道を改善するものがあります。この手術は喉の構造を温存するため、発声機能も守ることができます。
誤嚥防止術
誤嚥防止術は、気道と食道を分離させて誤嚥を完全に防ぐことを目的とした手術です。誤嚥防止術を行うべき人は以下の通りです。
- 誤嚥性肺炎を繰り返す人
- 唾液を飲み込むだけで誤嚥する人
誤嚥防止術は気道と食道の経路を完全に分離し、誤嚥を防ぐことができます。患者さんは手術後、誤嚥や肺炎を心配せずに安心して口から食事ができるようになります。
ただし、発声機能が失われることになるため、会話によるコミュニケーションができなくなることを理解して手術を受ける必要があります。
リハビリ
嚥下障害には下記のような代表的なリハビリ方法があります。
- 嚥下体操:あごの緊張をとって飲み込みやすくする
- 嚥下おでこ体操:飲み込む筋力を強くする
- ペットボトルブローイング:飲み込む力、呼吸、口を閉じる力などを改善する
嚥下障害のリハビリ方法については下記の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
>>【保存版】摂食嚥下障害の訓練・リハビリ方法を自宅でできるように紹介!
嚥下障害の予防方法
嚥下障害は日常的に意識して予防しないと発症してしまいます。下記では、意識すれば誰でもできる予防方法をご紹介するので参考にしてください。
食事のときに気をつけること
嚥下障害を予防するには、日常的に行う「食事」から気をつけることが大切です。下記では、食事時に気を付けるべき嚥下を予防する5つのことを解説しているので、ぜひ参考にしてください。
食事メニューの工夫
嚥下障害を予防するには、飲み込みやすい食事メニューを考えましょう。飲み込みやすい料理を作るときには下記のような調理方法を取り入れてみましょう。
- つぶす
- とろみをつける
- 水分を多くする
嚥下の進行具合によって食事内容を変える必要があります。ご家庭で調理が難しくなる時期がきた時は、介護施設や在宅サービスなどの食事サービスを検討するのもいいでしょう。
食事時の体勢や食べるスピード
食事をする際の体勢や食べるスピードは誤嚥を予防することに繋がるので、正しい姿勢と適切なスピードで食事するようにしてください。
のけぞった姿勢は誤嚥の危険が高まるので、椅子に座ってあごを引いた状態で食べましょう。食べ物を一口の量に調整した上で飲み込んで、口の中がなくなってから次の食べ物を運ぶような食べ方をしてください。
急いで食べると正しい姿勢でも誤嚥する可能性があるので、ゆっくり食べるようにしましょう。
適切な料理の温度
嚥下は体温と料理の温度差が大きいほど嚥下反射が高まるため、適切な料理の温度にするようにしましょう。体温と料理の温度差が20℃程度がベストなので、適切な温度の料理を出すようにしてください。
料理の温度は食欲にも影響します。冷たい方が美味しいものは冷たく、温かい方が美味しいものは温かくです。せっかくの美味しい料理なので美味しく食べられるようにしましょう。
香辛料の使用
香辛料は、嚥下障害の予防や食欲を増進させるために効果的な食材なので使用しましょう。香りは食事のおいしさの6割を占めると言われていて嗅覚を刺激します。
嚥下障害で香辛料をとる場合は、食べやすいようにシーズニングなどで香りをつけてペースト状にして食欲を増進させるようにしましょう。しかし、唐辛子やミントなど刺激が強い香辛料は、嚥下反射を強める可能性があるので注意が必要です。
口腔内をケアする
嚥下障害を予防するには、口の中をケアすることが重要です。口の中をケアすることで衛生環境が清潔になり、食べ物を咀嚼する健康な歯が保たれます。
また、口腔内が刺激されるので唾液の分泌が促進されて誤嚥の予防にも繋がります。毎食後にしっかり歯を磨いたり、入れ歯を洗浄することで嚥下を予防できます。
嚥下体操で筋力向上
嚥下障害は、嚥下体操で筋力を向上させることで予防できます。
嚥下体操とは、口・舌・首・肩などを動かして飲み込み(嚥下)をしやすくする体操で、毎日食事前にすることで口腔周りの筋力向上に繋がります。
デイサービスなど高齢者施設で行われている代表的な嚥下体操は「パタカラ体操」です。
- 「パ」「タ」を声に出すことで口と舌を鍛える
- 「カ」で喉を動かし、「ラ」で食べ物を飲み込む舌の動きをする
パタカラ体操の前後に深呼吸・腹式呼吸を取り入れると鼻も鍛えられるのでおすすめです。
正しく嚥下障害を治療して食事を心の底から楽しもう
嚥下障害は口の中の食べ物をうまく飲み込みにくくなる状態のことで、これまで幸せを感じられた食事が苦しく、命の危険が迫ってくるかもしれない病気です。
加齢や老化などで口腔周囲の筋力が低下する高齢者が発症しやすい病気ですが、子どもや成人した若者でもなることがあります。
嚥下障害ではない方は食事中や食後の違和感などがあるなら病院を受診して、嚥下障害と向き合っている方は治療して幸せな食事を取り戻しましょう!
記事を読んで不明点や個人的な質問があれば、江東区 東大島駅徒歩1分 よし耳鼻咽喉科までお気軽にご連絡ください。