最近、他人の話が聞き取りづらく聞き返してしまうことや、耳鳴り・めまいがよくおこることはありませんか?
それは、ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)という病気かもしれません。ヘッドホン難聴は初期症状に気づきにくく、重症化すると完治は難しい病気です。
この記事では、ヘッドホン難聴の症状や予防方法、早期発見のためのセルフチェック方法を解説します。
ヘッドホン難聴について、よし耳鼻咽喉科院長の山中が動画でも解説しているので合わせてぜひご覧ください。
ヘッドホン難聴とはこんな病気
ヘッドホン難聴は、ヘッドホンやイヤホンを使い、長時間にわたって大音量で音楽を聴くことで引き起こされる聴覚障害の一種です。
医療用語で「音響性難聴」と呼ばれ、大きな音にさらされることにより起こります。スマートフォンやポータブル音楽プレイヤーの普及、ヘッドホンやイヤホンの使用増加に伴い、音響性難聴の一種であるヘッドホン難聴の報告が増加しています。
特に10代~30代で増加が懸念されている
2019年には、若者を中心に世界の約11億人がヘッドホン難聴のリスクにさらされているとWHOが注意喚起しています。
10代〜30代の若者は、音楽鑑賞やゲーム、仕事などでヘッドホンやイヤホンを長時間大音量で使用することも多いため、ヘッドホン難聴になる人が増加しており、深刻な問題となっています。
特徴は進行速度が遅いため、初期症状に気づきにくい
ヘッドホン難聴は進行が遅く、初期症状に気づきにくいという特徴があります。少しずつ両耳の聴力が低下していくため、気づいたときには既に重症化しているということも少なくありません。
高音域などの特定の音域が聞こえにくく感じる場合や、騒音の中や複数の人が話す場面などで他人の声が聞き取りにくい場合は、ヘッドホン難聴の初期症状である可能性が高いです。
ヘッドホン難聴の主な症状
ヘッドホン難聴の主な症状は、聴力の低下、耳鳴りやめまい、低音域が聞こえなくなる低音難聴、耳閉感などです。
症状は人それぞれで、一時的な聞こえにくさなど軽度な症状から、持続的な耳鳴り、重度の聴力低下など深刻な症状に至るまで幅広い範囲にわたります。耳鳴りや聴力欠損などの主な症状の他に、音の歪みなどを感じる人もいます。
聴力の低下
ヘッドホン難聴は、特定の音や音域が聞こえにくくなります。初期症状として高音域が聞こえにくいと感じる方が多いです。周囲の人には普通に聞こえる音が自分だけ聞こえない場合は、発症のサインかもしれません。
耳鳴りやめまい
ヘッドホン難聴では、耳鳴りが頻繁に起こることがあります。ヘッドホンやイヤホンを使うと耳に大きな負担がかかります。その結果、内耳の血流やリンパの流れが悪化することで耳鳴りやめまいが起こるのです。
ヘッドホン難聴が原因で起こる耳鳴りは、「キーン」や「ブー」という音が聞こえます。ヘッドホンやイヤホンの使用後に長時間耳鳴りが起こる場合は、ヘッドホン難聴である可能性があるため注意しましょう。
低音難聴
低音難聴とは、500Hz以下の低音が聞き取りづらくなるという症状です。最初は高音域が聞こえなくなることが多いですが、症状が進行すると低音域が聞こえにくくなることがあります。
これは、蝸牛が低音を感じる部分から影響を受けやすい構造をしていることが原因です。ヘッドホンやイヤホンで音を聞くことによって、リンパの流れが悪くなるためむくみ、蝸牛の中にあるリンパ液の振動が弱まることで低音が聞き取りにくくなります。
耳閉塞感を感じる
ヘッドホン難聴では、聴力の低下とともに耳が詰まっているように感じることがあります(耳閉塞感)。山などの高いところや飛んでいる飛行機の中で感じる耳の違和感と似た症状です。
すぐ治るようであれば問題はありませんが、長時間治らないようであればヘッドホン難聴の可能性があります。
ヘッドホン難聴になる原因
ヘッドホン難聴の原因は、耳を過度な音量で刺激し続けた結果、内耳が損傷してしまうことです。
内耳の中に蝸牛という器官があり、その蝸牛の中に「有毛細胞」という音を感じとる細胞があります。その「有毛細胞」の先端にある「聴毛」(ちょうもう)が音の振動を受け取ることで音が聞こえます。
長時間にわたって大音量にさらされることによって、聴毛が損傷を受け、抜け落ちてしまうのです。聴毛がないと音の振動を受け取れなくなるため、聴力が低下し難聴を引き起こしてしまいます。
聴毛の損傷は、短時間の大きな音でも起こる可能性があります。100㏈以上だと突然難聴を発症するリスクがあるため、音楽鑑賞だけでなく通話でも音量に注意しましょう。
ヘッドホン難聴は治らない
一度傷ついた聴毛は、現在の医療では元に戻すことができません。一度ヘッドホン難聴を発症してしまうと治療法がなく、治すことができないという事態になってしまいます。
しかし、初期段階で発症に気づくことができれば、ステロイドの投薬や血管拡張薬、代謝促進薬、ビタミンB12製剤の投与とともにヘッドホンやイヤホンの使用を中止し、耳を安静にすることで回復する場合があります。
ヘッドホン難聴は、気づいたときには、重症化していることが多いです。治療法はないため、予防がとても重要になります。
セルフチェックで危険度を確認
ヘッドホン難聴は早期発見がとても大切です。以下のセルフチェックで耳の健康状態を確認してみましょう。
- 周囲の音が聞こえないほど大音量でイヤホンやヘッドホンを使用している
- 高いところに登った時のような耳の詰まり感がある
- ヘッドホンやイヤホンを1日1時間以上使用している
- ヘッドホンやイヤホンを使用後、耳鳴りやめまいをすることがある
- 対面で話していて聞き間違いが増え、聞き返すことがある
- 話し声が大きいと言われることがある
- テレビやスマホの音が大きいと言われることがある
当てはまる数が多いほどヘッドホン難聴の可能性が高くなります。当てはまる数が1つや2つでも油断は禁物です。早めに対策をしましょう。
違和感がしたらすぐ病院へ
ヘッドホン難聴の症状がある場合は、早期発見のためにすぐに耳鼻咽喉科へ受診してください。
耳鼻咽喉科では、問診、聴力検査、内耳検査などを行います。正確な診断と適切な治療のために、症状や違和感を詳しく医師に伝えてください。重症化する前にきちんと診察を受けることが重要です。
必要であれば、補聴器外来がある病院を受診して検査を受け、補聴器の使用について相談するようにしてください。
ヘッドホン難聴にならないための4つの予防方法
ヘッドホン難聴は一度重症化すると完治が難しいため、予防がとても重要になります。
最近は仕事中にもヘッドホンやイヤホンを使用する機会が増え、長時間の使用を避けられない人も多いかと思います。普段から予防の習慣をつけて、耳の健康を保ちながら音楽を楽しんでください。
ヘッドホンやイヤホン装着は80dBで1日5時間半を目安に
ヘッドホン難聴のリスクの指針について、WHOは2019年に音圧と使用時間でリスクの度合いが決まると発表しました。
WHOが発表したリスクの指針では成人の場合、ヘッドホンやイヤホンを80㏈で1日5時間半以上使用した場合、ヘッドホン難聴のリスクが高まるとされてます。
子どもの場合、ヘッドホンやイヤホンを75㏈で1週間あたり40時間以上使うことによってリスクが高まります。音量や使用時間を守りましょう。
1時間のうち10分間は耳を休ませる
ヘッドホンやイヤホンの使用を1日1時間に抑えることが理想ですが、仕事などで難しい場合もあります。1日1時間以上使用する際は、1時間に1回、10分程度耳を休ませるようにしましょう。
大音量ではなくても長時間音を聴き続けることで耳が疲れ、ダメージを負うため、音量の大きさに関係なく休憩をとるようにしてください。
ヘッドホンやイヤホンを使って大音量で長時間聞かない
ヘッドホンやイヤホンの音量を適切な大きさに設定し、長時間大音量で聞くのは避けてください。
時間は他の予防方法で解説した1日1時間が理想的で、最大でも休憩をはさみながら80㏈で1日5時間半以下が目安です。耳の健康を守り、音楽を楽しむためにヘッドホンやイヤホンを使用する音量の目安は65㏈です。
音量が大きすぎると耳に与える負担が増加し、ヘッドホン難聴を引き起こす可能性が高まります。周囲の会話が聞こえる程度の音量に設定すると良いでしょう。
ノイズキャンセリング機能を活用する
最近のヘッドホンやイヤホンには、ノイズキャンセリング機能がついているものがあり、ヘッドホン難聴の予防に活用できます。この機能を使う事で周囲の音が聞こえなくなるため、大音量で音楽を聴かなくてもよくなり、ヘッドホン難聴を予防することができます。
ノイズキャンセリング機能が付いたヘッドホンやイヤホンを選ぶこともヘッドホン難聴のリスクを下げる手段の1つです。
ヘッドホンとイヤホンでより耳に悪いのはどっち?
ヘッドホンとイヤホンは、どちらの方がより耳に悪いというわけではなく、使い方次第でどちらもリスクは高まります。
イヤホンは直接耳の穴の中にイヤーピースを入れるため、内耳によりダメージを与えてしまい、耳内部への負担が大きくなります。ヘッドホンは耳をまるごと覆うため、耳全体への負担が大きくなります。
ヘッドホンやイヤホンを使う場合は、どちらを使用する場合でも適切な音量と使用時間を守ることが重要です。
後悔しないためにヘッドホン難聴を予防して、耳の健康を守りましょう
ヘッドホン難聴は若者を中心に急増しており、身近な病気になりつつあります。ヘッドホンやイヤホンは音楽をより楽しむための便利な道具です。しかし、間違った使い方をすれば、聴力低下を引き起こし、取り返しのつかない事態を招いてしまいます。
ヘッドホン難聴についての理解を深め、症状が悪化してから後悔しないように、しっかりと予防して耳の健康を守ってください。