「声が出ない」と感じたことはありますか?
日常生活や仕事で声を使うことは多く、その声に問題が生じることは大きなストレスです。この記事では、そんな声の問題、特に「機能性発声障害」に焦点を当て、その原因や症状、治療方法について詳しく解説します。
発声障害(機能性発声障害)とはこんな病気
発声障害(はっせいしょうがい)とは、その名の通り声が出しづらくなったり声の質が悪くなったりする状態を言います。
発声障害の原因の多くは、声帯(せいたい)に何らかの病変が起きる器質性発声障害です。反対に、声帯の病変や麻痺などがない発声障害は機能性発声障害の可能性があります。機能性発声障害の割合は全ての発声障害の8%程度と言われ、多くはありません。
発声障害(機能性発声障害)の症状
機能性発声障害の症状は自分が思うような発声をできないことですが、具体的な症状は以下のように人によってさまざまです。
- 声帯が締まりすぎる
- 声が出しにくい
- ガラガラする
- 声帯が締まらない
- 声がかすれる
- 大きな声が出せない
- うまく息が吐けない
- 出だしの声が出ない
- 声が続かない
発声障害(機能性発声障害)の原因は精神的・心因的な場合が多い
機能性発声障害の代表として、精神的・心因的なものが原因で起こる心因性失声症があります。心因性失声症は、精神的なショックがきっかけで起こります。
咳や食べ物を飲み込む時の声帯の動きに問題がないにもかかわらず、声を出そうとすると声帯がうまく動かないという症状が特徴です。激しいストレスがきっかけとなることも多く、若年者に多く見られます。
発声障害(機能性発声障害)の治療方法
発声障害の治療には、音声治療・薬物療法と手術があります。
音声治療がメインとなることが多いですが、症状や発声障害の種類によって、薬物療法や手術を選択します。手術後も発声障害の症状が残る場合は、リハビリテーションも行います。
発声障害(機能性発声障害)は治る可能性が高い
機能性発声障害は、原因となったストレスが解消することで自然に治ることも珍しくありません。
自然治癒しない場合も、適切な治療を受けることで症状が大きく改善する可能性が高いです。耳鼻咽喉科の専門医の適切な指導のもとでの治療が、声の健康を取り戻すためには大事です。
音声治療
機能性発声障害の治療では、耳鼻咽喉科の専門医や言語聴覚士による音声治療が第一選択とされています。
音声治療は、誤った発声習慣を直接的・間接的に適切な発声方法に導く治療方法です。間違った発声習慣が原因の発声障害に特に有効とされています。
音声治療の流れ
- 問診:患者の主訴や症状、生活背景などを確認する。
- 音声機能検査:音声の品質や発声の方法、声帯の動きなどを詳しく調べる。
- 治療計画をたてる:患者の状態や目標に合わせて、治療の方針や方法を決める。
- 治療の実施:音声訓練やリハビリテーションを行う。
- 評価とフィードバック:治療の効果を評価し、必要に応じて治療計画を見直す。
薬物療法
心因性失声症の治療では、第一選択となる音声治療とあわせて、薬物による治療も検討されます。
例えば抗不安薬は、心理療法や音声治療と併用することで、心理的要因や精神疾患に基づく音声障害の治療に有効です。
けいれん性発声障害では、音声治療で症状が改善しないケースも多く、手術やボツリヌストキシンの注射(内喉頭筋(ないこうとうきん)内局所注入療法)が有効だと報告されています。
入院・手術が必要な場合もある
けいれん性発声障害のうち内転型に対しては、のどを切開し、声帯をひろげて器具を埋め込む手術(甲状軟骨形成術Ⅱ型)や、声帯の筋肉を切除する手術(甲状披裂筋(こうじょうひれつきん)切除術)が必要となることがあります。
病状やクリニックにもよりますが、手術は日帰り〜数日の入院で行うことが可能です。
手術後はリハビリテーションも必要
声帯の手術後に、何らかの症状が残っている場合などはリハビリテーションを行います。
声が出しづらい期間が長かったケースなど、無理な発声法が習慣化している際は、適切な発声法ができるようリハビリテーションをします。
発声障害(機能性発声障害)の診断・検査方法
発声障害の診断は、問診と聴診から始まります。
主な問診の内容は以下の通りです。
- いつからどのような症状があるか
- のどの痛みや違和感はあるか
- 声の乱用はあるか
- 職業
- 喫煙・飲酒の状況
- 胃食道逆流症の既往
- 頸部・胸部の手術歴
問診とあわせて、GRBAS尺度という4項目+全体の評価も行います。
- G(grade):嗄声の全体的な程度
- R(rough):ガラガラ声、ダミ声などの程度
- B(breathy):息漏れしているような印象の程度
- A(asthenic):弱々しい印象の程度
- S(strained):無理をして発声している程度
これら5つについて0・1・2・3 の4段階で評価します。
検査では、器質性発声障害と区別するために、声帯を内視鏡カメラなどで観察し、器質的な病変がないかを確認するのがメインです。
他には、患者の声を録音し、波形や周波数などの声の特性を分析する音声分析や、声帯の筋肉の活動を測定するための電気生理学的検査を行います。
発声障害(機能性発声障害)の種類と特徴
発声障害はさまざまな原因や症状で分類されます。
ここでは、機能性発声障害として知られる7つの主要なタイプに焦点を当て、それぞれの特徴や原因について詳しく解説します。
心因性失声症
精神的なショックがきっかけで発症します。声帯の病変や運動に問題はありませんが、ささやき声でしか会話ができなくなります。咳払いは通常時と変わらないことが特徴です。
音声衰弱症
音声衰弱症は、だんだんと声が弱々しくなる症状が特徴です。歌手など、声を使う職業の方が多くかかる傾向があり、声帯の使い過ぎや、誤使用が原因ではないかと言われています。
変声障害
思春期における第二次性徴期には、喉頭が大きくなり、声帯が伸びることによって、低い声へと変化します。この変化に声の出し方を合わせられず、声が高いままとなっている状態が変声障害です。
いわゆる裏声の状態で、声帯の誤使用により高い声で発声している状態です。男性で顕著ですが、女性でも発症することがあります。
仮声帯発声
いわゆるガラガラ声やダミ声が特徴です。これは声帯の上部にある、声帯と形態の似た仮声帯(かせいたい)が病的に振動してしまうために起こります。仮声帯が正常な声帯の振動を妨げるために、ガラガラ声になります。
けいれん性発声障害
けいれん性発声障害は、声帯の筋肉が異常な動きをすることで声の変調や発声困難を起こす疾患です。けいれん性発声障害は他と異なり、音声治療の効果が出づらいのが特徴です。
内転型痙攣性発声障害
けいれん性発声障害の多くは内転型です。声帯が過度に閉じることで、声がつまったり、しぼり出すような感じになったりして、声の出しにくさや途切れが起きます。
外転型痙攣性発声障害
外転型は、声帯が過度に開くことで、息漏れのような声になったり、声が弱くなったりして、かすれや震えが起きます。
混合型痙攣性発声障害
混合型は、内転型と外転型の症状が混在するタイプで、声帯が過度に閉じたり、開いたりするため、さまざまな声の問題が生じます。
過緊張性発声障害
過緊張性発声障害は、発声に関わる筋肉が過度に緊張することで生じる声の障害です。内転型痙攣性発声障害と似た症状が多く、判断するのが難しい障害の一つです。
内転型痙攣性発声障害では手術やボツリヌストキシンの注射で治療しますが、過緊張性発声障害では、音声治療が第一選択とされるため、専門家による診察が必要となります。
低緊張性発声障害
低緊張性発声障害は、発声に関わる筋肉の緊張が不足して生じる声の障害です。緊張が不足することで、声がかすれたり大きい声が出なくなったりすることがあります。
発声障害と他の障害の違い
発声障害には、いくつかの類似する障害があります。ここでは、音声障害、発音障害、構音障害の3つと発声障害との違いを解説します。
音声障害
音声障害は、声の質や音量、音程などの特性に関連する障害を指します。例えば、声がかすれる、声が高くなる、声が小さくなるなどが該当します。発声障害と違い、音声障害は声の「質」に問題がある状態です。
発音障害
発音障害は、特定の音を正しく発音するのが難しい状態を指します。例えば、「さ」を「ざ」と発音してしまうなどの症状があります。発声障害と違い、発音障害は特定の音の発音に問題がある状態です。
構音障害
構音障害は、口の中の部位(舌、唇、歯など)を正しく動かして音を作るのが難しい状態を指します。発声障害と違い、構音障害は口の中の部位の動きによる音の形成に問題がある状態です。
「声が出ない」などの場合は早めに耳鼻咽喉科か音声外来へ
発声障害は、声が出しづらくなる状態や声の質が変わる状態を指し、多岐にわたる原因が考えられます。特に機能性発声障害の場合、精神的・心因的な要因が関与することが多いです。
声の問題を感じた際は自己判断せず、早めに耳鼻咽喉科や音声外来での専門的な診断と治療を受けることが大切です。
記事を読んで不明点や個人的な質問があれば、江東区 東大島駅徒歩1分 よし耳鼻咽喉科までお気軽にご連絡ください。