胃食道逆流症(GERD)とはこんな病気
胃食道逆流症とは胃酸などが食道に逆流する病気です。治療せず放置していると、逆流した胃酸がさまざまな症状を起こし、生活の満足度を下げてしまいます。食道粘膜の状態によって逆流性食道炎と非びらん性胃食道逆流症に分けられます。
逆流性食道炎
内視鏡検査にて食道粘膜にびらんや潰瘍がみられるのが逆流性食道炎です。逆流した胃酸が食道粘膜を傷つけて炎症を起こしてしまうからです。胃食道逆流症のうち、30〜40%程度が該当します。
非びらん性胃食道逆流症(NERD)
胸やけなどの症状があるのに、検査をしても食道粘膜に異常がない場合を非びらん性胃食道逆流症(NERD)と言います。見た目は異常がないため、専門医による精査が必要な病気です。
胃食道逆流症のうち60〜70%程度が該当します。薬が逆流性食道炎と比べて効きにくいのが特徴です。
「びらん」とは粘膜のただれのこと
「びらん」とは、粘膜が炎症によりただれた状態のことです。食道のびらんは中心が白く、その周りの粘膜が赤くなっており、出血することもあります。粘膜より深い層が傷ついた場合は「潰瘍」と呼ばれます。
胃食道逆流症の原因
胃食道逆流症の原因は、下部食道括約筋(胃と食道をつなぐ部分の筋肉)の働きが弱くなることです。下部食道括約筋は、胃酸や食べ物が食道へ逆流するのを防ぐ役割があります。
食生活や睡眠など生活習慣が乱れると、下部食道括約筋の働きが弱まり胃酸が逆流しやすくなります。
暴飲暴食
過剰に飲み食いすると胃の中の圧力が高まり、胃酸が逆流しやすい状態になります。消化に時間がかかり、胃酸の分泌が多くなることも原因のひとつです。胃には大人だと約2Lの飲食物が入りますが、それを超える量を食べると逆流しやすくなります。
ストレス・睡眠障害
ストレス・睡眠障害は胃酸が逆流する原因です。ストレスや睡眠不足が続くと自律神経が不安定になり、胃腸の働きに影響するからです。寝ている時に胃酸による胸やけが起きて、睡眠障害が悪化することもあります。
アルコールの摂りすぎ
アルコールは下部食道括約筋の働きを弱めるため、胃酸が逆流しやすくなります。特にビールなどの炭酸は胃が膨らみ、ゲップが出やすくなります。ゲップと共に胃酸の逆流を引き起こしやすくなるため、アルコールの摂りすぎには注意してください。
肥満
肥満の人も胃食道逆流症になりやすいです。内臓脂肪によって胃が圧迫されることで胃酸が上に押し上げられるからです。
胃食道逆流症の症状
胃食道逆流症のよくある症状は胸やけと呑酸です。逆流した胃酸が食道や気道に炎症を起こすと、みぞおちの痛みや咳などの症状が出ることもあります。
自覚症状は胸やけや呑酸
胸やけは胃酸が上がってきてみぞおちがヒリヒリと熱くなる感覚です。呑酸とは胃酸が口の中まで上がってきて、酸っぱさや苦みを感じることです。胸やけや呑酸は食後や飲酒後によく起きます。症状が続くと食事や睡眠を十分にとることが難しくなり、満足な生活を送れなくなる可能性があります。
症状がひどい場合は痛みも伴う
症状がひどい場合はみぞおちの痛みも起きます。食道粘膜には胃酸を防御する機能がありません。胃酸は金属も溶かしてしまうくらい強い酸で、逆流した胃酸に食道粘膜がさらされ続けると、炎症が起きて痛みを引き起こしてしまいます。
咳や声のかすれがある場合もある
逆流した胃酸が喉や気道を刺激すると、咳や声のかすれが出ることがあります。食道と気道は隣り合わせであり、逆流した胃酸が気道を刺激するからです。ひどい場合は、肺に炎症を起こして入院となることがあります。
検査でわかる症状
内視鏡検査などをすれば「炎症がどのくらい深く広がっているか」「食道と胃は正常に動いているか」などが分かり、治療の方針を決めることができます。症状の原因を調べるためには検査をすることが大切です。
胃食道逆流症の検査方法
一般的な検査方法は、食道内視鏡検査です。がんなど他の病気ではないことを確認するためにも必要な検査です。食道内pHモニタリング検査や食道内圧測定検査をすれば、胃酸が逆流していないか、食道と胃は正常に動いているかを確認することができます。
食道内視鏡検査
口または鼻から内視鏡を挿入して、食道の粘膜を観察する検査です。食道内部に炎症が起きていないか、がんなど他の病気がないかを調べます。検査前日の夕食から絶食にして、消化管の中を綺麗な状態にする必要があります。
食道内pHモニタリング検査
pHモニターという記録計を鼻から挿入して、食道のpHを24時間記録する検査です。pHの低い胃酸が逆流すると食道内のpHが下がることを利用して、胃酸が逆流しているかを確かめます。検査中は普段通りの生活ができますが、記録計を携帯しておく必要があります。
食道内圧測定検査
下部食道括約筋の圧力を測定し、食道の運動機能を測定する検査です。食道の内圧を検査することで、下部食道括約筋が正常に運動しているか調べます。内圧測定のためのチューブを鼻から食道に挿入します。
レントゲン検査
造影剤を飲んで胃から食道へ造影剤が逆流しないかを調べる検査です。胃と食道の状態の全体像を把握できるメリットがあります。
胃食道逆流症の治療方法
胃食道逆流症の治療は、主に「薬物療法」と「生活習慣の改善」の2つです。薬物療法は胃酸の分泌を抑える薬やお腹の運動を改善する薬を使います。ただし胃食道逆流症を薬だけで治すことは難しく、薬で症状を抑えながら、生活習慣を改善し治療することが効果的です。
胃酸を抑える薬を使う
胃酸の分泌を抑えれば、食道の炎症を抑え胸やけを改善できます。胃酸を抑える薬でよく使うのはPPI(プロトンポンプインヒビター)とP-Cabと呼ばれる薬です。胃食道逆流症と診断されたら、最初はこの薬を処方されることが多いです。
お腹の運動を改善させる薬を使う
お腹の運動を改善させる薬を使うこともあります。胃腸の働きを活発にし、逆流した胃酸を胃の中に戻して胸やけを治します。さらに食べ物の消化を助けることで、余分な胃酸が出ないようにします。
食事など生活習慣の改善
胃食道逆流症の治療は生活習慣の改善が大切です。特に毎日の食生活を改善するだけで症状がよくなることもあります。以下のことに気をつけましょう。
- 胃酸が出やすい飲食物(焼肉・コーヒー・柑橘類など)は控える
- 消化の良い食べ物(うどん・白身魚・バナナなど)を中心に食べる
- 食事はよく噛んで、ゆっくりと食べる
胃食道逆流症を発症する人の特徴
胃食道逆流症になりやすいのは、以下のような胃を圧迫しやすい姿勢や体型の人です。
- 背中が曲がった高齢者
- 妊婦
- 肥満の人
高齢者に多く発症しますが、赤ちゃんでも発症することがあります。
赤ちゃんも発症することがある
赤ちゃんの場合、胃と食道を分ける筋肉である下部食道括約筋が発達していないことから、飲んだミルクなどが逆流しやすく、胃食道逆流症が起こりやすいです。ミルクを飲んでいる最中や飲んだ後に口から吐くことがありますが、このような症状は珍しくありません。赤ちゃんの半数以上でみられますが、特に治療は必要なく、成長に伴い自然に症状がなくなっていきます。
胃食道逆流症の患者は多い
胃食道逆流症はもともと日本では少なかったのですが、食生活の欧米化や高齢化により患者の数が増えています。日本では成人の約20%の割合でこの病気にかかっています。
胃食道逆流症の予防法
日常生活に気を付けることが胃食道逆流症の予防には大切です。ベルトの強さや就寝姿勢などに注意するだけでも胃の内容物が食道に逆流しにくくなり予防が期待できます。
日常生活でできること
具体的には以下のような方法があります。
- 前屈みの姿勢・猫背にならない
- ベルトでお腹を強く圧迫しない
- タバコをやめる
- 寝る前に食事を摂らない
前屈みの姿勢や猫背だとお腹が圧迫され胃酸が逆流しやすくなります。寝る前に食事を摂るのも逆流の原因なので、寝る3時間前は食事を控えてください。
就寝姿勢で気を付けること
就寝姿勢は、胃食道逆流症の予防法の中でも特に重要です。以下の姿勢なら効果が期待できます。
- 身体の左側を下にして寝る
- 20cmほど上半身を起き上がらせて寝る
食道と胃の角度から身体の左側を下にして寝ると、胃酸が逆流しにくいことがわかっています。20cmほど上半身を高くする時はクッションやマットを敷くとおこないやすいです。
胃食道逆流症と関連のある病気
胃食道逆流症の症状は狭心症と区別がつきにくいことがあります。炎症が広がると合併症も起こすため、関連のある病気の特徴を知っておきましょう。
狭心症
狭心症は心臓周囲の血管の血液が流れにくくなる病気です。血液が回らず酸素不足の状態になると胸痛が現れます。胸痛は逆流性食道炎による胸の痛みと紛らわしいですが、痛みの特徴が異なります。狭心症による痛みは、心臓が締め付けられるような感覚が続き、吐き気や息苦しさを伴うのが特徴です。
気管支喘息
気管支喘息とは、アレルギーなどが原因で気道が炎症を起こし咳や呼吸困難などが起きる病気です。胃酸が気道を刺激して喘息を起こすため、胃食道逆流症は気管支喘息を悪化させることがあります。気管支喘息の方の半分は、胃食道逆流症を合併していると言われています。
食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアは、肥満などが原因で胃の一部が膨らみ横隔膜(胸と腹部を隔てた膜)を超えて飛び出した病気です。食道裂孔ヘルニアになると胃に圧力がかかりやすく、胃食道逆流症が起こりやすいです。生活習慣の改善や薬による治療を行い、改善しなければ手術をすることもあります。
胸やけ・呑酸を感じた際は早めに病院へ
胃食道逆流症の主な症状は胸やけと呑酸です。高齢者や肥満の方に多いですが、赤ちゃんにも起こることがあります。生活の満足度が下がりやすいため、薬で症状を抑えながら、生活習慣を改善することで治療していきます。早めの治療で合併症を防げるので、胸やけや呑酸を感じた際は早めに病院を受診してください。
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