自分の声が響いて聞こえたり、耳が詰まったように感じたりしていませんか。それは耳管開放症という病気かもしれません。この記事では、耳管開放症の症状や原因・治療方法について解説しつつ、日常生活での注意点についてもくわしく解説します。
動画で耳管開放症について知りたい方は、よし耳鼻咽喉科院長の山中による解説をご覧ください。
耳管開放症とはこんな病気
耳管開放症とは、耳管(耳と鼻をつなぐ管)が開いたままになってしまう病気です。通常耳管は閉じているのですが、飛行機に乗ったときなど、必要なタイミングだけ開いて耳の中の圧力を調節し、適切に鼓膜を動かすことで音を聞くことができます。
耳管開放症ではこの開閉が上手にできず開いたままになってしまうため、耳のつまり感や自分の声が響くように感じてしまうのです。
30~40代、70~80代で発症しやすい
耳管開放症を発症しやすい年代は大きく2つに分けられます。30〜40代では急激なダイエットや脱水などが原因で、耳管周りの脂肪が減ることで発症する場合が多いです。70〜80代の方は年齢とともに耳管周りの筋力が低下するため、耳管の開閉がうまくできず発症してしまいます。
耳管開放症と耳管狭窄症の違い
耳管が開いたままになってしまうのが耳管開放症ですが、反対に耳管が閉じて塞がってしまう病気を耳管狭窄症と言います。耳管が塞がってしまうと、耳の中に浸出液がたまってしまい、鼓膜が適切に動かなくなってしまいます。
どちらも似たような症状が起こりますが、耳管開放症とは違い、耳管狭窄症は副鼻腔炎や上咽頭炎など、鼻の奥で起こった炎症をきっかけに発症することが多いです。
耳管開放症の主な症状
耳管開放症の主な症状は、自分の声や呼吸音が響いて感じたり、膜が張って耳が詰まったような耳閉感を感じたりする場合があります。自分の声が響くため、声の大きさの調節がうまくできなくなってしまう方もいます。
立ち仕事や脱水症状で悪化しやすいですが、反対に、頭を下げたり横になって寝たりすると症状がやわらぐのは耳管開放症の特徴のひとつです。
セルフチェックしてみよう
耳管開放症かもしれないと思った方は、まずは以下に該当する項目はないかご自身で確認してみましょう。
- 耳が詰まるような耳閉感
- 自分の声が響く
- 鼻をすする習慣がある
- 水分をほとんど取らない
- ダイエットなどして急激に体重が減った
- 環境が変わりストレスが増えた
- 妊娠した
- 頭を下げたり横になったりすると症状が楽になる
- 首を押さえると楽になる
特に下から2つの行動をすると症状が楽になる方は、耳管開放症の可能性が高いですので、早めに専門の耳鼻咽喉科へご相談ください。
耳管開放症は体重減少やストレスが主な原因
耳管開放症の発症は、体重減少やストレス過多と深くかかわっています。ダイエットなどで急激に体重が減ってしまうと、耳管周りの脂肪も減少してしまい、耳管を閉じることができなくなってしまうのです。ストレス過多の場合は自律神経の働きが乱れてしまい、耳管の開閉がうまくできなくなってしまいます。
そのほかにも顎関節症や末梢循環障害が原因で発症したり、妊娠をきっかけに発症したりする場合もあります。
耳管開放症の応急対策や治療法
症状が軽い場合や一時的に悪化したときは、生活習慣の改善や応急対策を指導します。効果が見られない場合は、点鼻薬や漢方薬などの内服治療を選択したり、診察時に外科的処置をおこなったりする場合があります。
自力で治すなら生活指導
急激な体重減少やストレス、脱水などが原因で発症しますので、適切な体重を維持してこまめに水分をとりましょう。マスクなどで保温・保湿することも大事です。生活のリズムを整えることで自律神経をコントロールし、ストレス環境を減らしてください。
スカーフ療法
スカーフ療法とは、首周りを圧迫することで耳管の周りの血流を阻害し、むくみを生じて一時的に症状を軽減させる対処方法です。女性ならスカーフ、男性ならネクタイを活用します。外出先で突然症状が悪化したときに、締め付けを一時的に強くすることで症状の緩和が期待できます。
鼻すすりは厳禁
鼻をすすると耳管は閉じやすくなるため、耳管開放症の方は無意識に鼻すすりをする傾向があります。しかし、鼻すすりを続けると鼓膜が内側にへこんでいき、鼓膜が耳の中の組織とくっついて(癒着)しまうことで、重篤な中耳炎を発症してしまう可能性があります。鼻すすりはしないようにしましょう。
カフェインを含むコーヒーなども控える
カフェインを多く含むコーヒーや紅茶、緑茶などは控えめにしましょう。カフェインは耳の血管を収縮させて血流を悪くさせてしまいますし、夜に飲むと眠れなくなり、睡眠不足になってしまう可能性があります。カフェインには利尿作用もあるため、脱水傾向が助長する可能性もあります。
頭を下げることで症状が緩和する場合もある
耳管開放症の特徴として、頭を下げることで症状が緩和する場合があります。外出中や仕事中に急に症状が悪化した場合は、前かがみになったり横になって寝てみたりして、頭を下げるような動作をためしてみてください。
生理食塩水を使った点鼻療法
鼻から生理食塩水を入れて、耳管の入り口を狭くしたり閉じたりすることで症状を緩和させる治療方法です。点鼻するときの頭の角度などコツは少し必要ですが、上手に点鼻できればすぐに効果を実感することができます。生理食塩水は人の体液とほとんど同じ濃度の塩水で、刺激も少なく、妊娠中の方にも安心しておこなえる治療方法です。
漢方薬・内服薬治療
耳管開放症では漢方薬がよく効く場合があります。気持ちを落ち着ける作用がある加味帰脾湯(かみきひとう)や、耳管を引き締めて持ち上げる作用が期待できる補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などを使用します。
血管を拡張し血流を増やすATP(アデノシン三リン酸ナトリウム)製剤も効果的です。血流を増やすことで耳管が狭くなり、症状の緩和が期待できます。
耳管処置
耳管処置とは、耳管に直接薬剤を注入して耳管を閉塞させる治療方法です。鼻から金属の管を通して処置をおこないます。効果の持続は個人差があり、1〜2週間程度持続する方が多いです。
鼓膜換気チューブ留置術(手術)
鼓膜を切開し、数㎜程度の小さなチューブを鼓膜に差し込む手術です。チューブを差し込むことで耳管と外界の圧力差をなくし、鼻すすりによる鼓膜の凹みを予防する効果が期待できます。手術は局所麻酔を使用して、外来でおこなうことが可能です。
日常生活では耳に水が入らないよう気をつけて生活してください。ただし、水泳などは耳栓をすれば可能ですので、気になる方は医師にご相談ください。
耳管ピン挿入術(手術)
鼓膜を切開して、専用のピンを直接耳管に挿入して耳管をふさぐ手術です。2020年に保険適応が認められて、認定を受けた専門医で処置をおこなうことが可能です。基本的には入院などの必要はなく、局所麻酔を使用して短時間で終了します。
効果の長期間持続が期待でき、内服治療や鼓膜換気チューブ留置術などをおこなっても改善が見られない重症例に選択する場合があります。
耳管開放症になってやってはいけないこと
耳管開放症と診断されたら、症状を悪化させないためにも普段の生活に注意しましょう。ダイエットのしすぎや一日中立って仕事したり外出したりするのは控えてください。
鼻をすすると一時的に症状が緩和するため、鼻すすりをしたくなります。しかし続けてしまうと耳管開放症が悪化してしまい、重篤な病気の発症につながってしまう可能性があります。強く鼻をすするのは絶対に避けてください。
耳管開放症をほっとくと重い病気に発展する可能性がある
耳管開放症を放置して悪化すると、癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎などの重篤な中耳炎になる可能性があります。真珠種性中耳炎になると聴力低下だけでなく、めまいや顔面神経麻痺などの症状を起こす場合があります。この状態になってしまうと内服治療では改善が難しいため、外科的処置や手術が必要です。
耳管開放症の予防方法
耳管開放症を予防するためには、急激な体重減少を避け、こまめに水分を補給して脱水状態にならないようにしましょう。ストレスによる自律神経の乱れも発症原因になりますので、十分な睡眠をとって、ストレスをため込まないようにしてください。激しい運動による脱水には注意が必要ですが、適度な運動も血行を良くするので予防におすすめです。
「耳管開放症診断基準案2016」に基づいて診断・検査が行われる
耳管開放症の診断・検査は、他の疾患ではないことを確認する必要があり、症状だけでは判断できません。基本的には耳管開放症診断基準案2016に基づいておこなわれ、以下の3つを満たす場合を確実例、1番目と2または3番目の合計2つを満たす場合を疑い例とします。
- 自覚症状がある
- 自声強聴、耳閉感、呼吸音聴取の1つ以上
- 耳管閉塞処置(aまたはb)で症状が明らかに改善する
- 臥位・前屈位などへの体位変化
- 耳管咽頭口閉塞処置(綿棒、ジェルなど)
- 開放耳管の他覚的所見がある(以下の1つ以上)
- 鼓膜の呼吸性動揺
- 鼻咽腔圧に同期した外耳道圧変動
- 音響法にて①提示音圧100dB未満 または②開放プラトー型
一度の診察だけでは判断できず、複数回の受診で初めて確定診断できる場合もあります。
NHKのためしてガッテンでも紹介されていました
耳管開放症については、NHKのためしてガッテンでも紹介されていました。番組内では耳管開放症になりやすい方や、鼻すすりの危険性について東北大学の小林先生が解説されています。耳管開放症の認知度はまだ低く、症状は周囲に伝わりにくいため、苦しみを理解してもらえず悩んでいる方は多いです。
耳の不快感を感じる場合は耳鼻咽頭科を受診しよう
耳管開放症は生活習慣に注意することで予防することもできます。しかし、症状が続いていても放置して悪化してしまうと、手術が必要な重篤な病気になってしまう可能性があります。鼻すすりをしたり頭を下げたりしたときに症状が軽くなる場合は、耳管開放症の可能性が高いです。このような耳の不快感を感じた場合は、はやめに耳鼻咽喉科へご相談ください。
記事を読んで不明点や個人的な質問があれば、江東区 東大島駅徒歩1分 よし耳鼻咽喉科までお気軽にご連絡ください。